第1回(全6回)環境変化の先取りとイノベーションへの挑戦
はじめに
ここ数年、世界的な金融危機の影響からの世界経済が減速、原油・原材料価格の高騰、政権交代による方針転換
等の影響を受け、企業各社においては、業績や資金繰り等が、急速・大幅に悪化してきました。
しかし、昨年度より、国・県の対応、企業の努力と中国・インドを中心としたアジア市場に回復基調が見え、業績的には徐々にではありますが回復して来ているかと思います。
この様な状況の中、中小企業として、今後どの様な考え方で、また、どの様に取り組んでいかねばならないか?を「中小企業、さらなる成長・発展への挑戦」を統一テーマに6回の連載の中で取り上げていく予定です。
本稿は、その第1回目として「環境変化の先取りとイノベーションへの挑戦」をテーマに述べていきます。
1.ここ1~2年の企業を取り巻く環境変化と経営課題
ここ1~2年大変厳しい状況の中、企業各社は、以下に示す様な視点から、過去の事業展開の中で膨れ上がった面をそぎ取り、財務体質を強化し、業績低迷への対応に取り組んできました。
- 経費削減、人員削減
- 同業との連携による相乗効果の発揮(共同購入、チャネル有効活用等)
- 事業の集中・選択(既存事業の営業譲渡、M&A等による事業の統合等)等
さらに、多少、業績が上向いて来た企業は、この危機を業容拡大のチャンスとして取り込もうと前向きな展開を始めているところも出てきています。
- 顧客との接点強化に向けた取り組み・M&A等による既存事業のエリア拡大
- 中期的成長に向けた人材開発、技術開発への取り組み
- アジアを中心とした成長・発展エリアを対象とした事業拡大 等
一方、長期的に見ると少子高齢化・人口減少が進展してくる中、さらなる持続的な成長・発展を図っていくためには各企業とも労働生産性を向上させることが重要な課題となってきており、その中で、グローバル化、顧客満足度向上、新商品・新サービス・新事業開発、ブランド価値向上等ポジティブなリストラクチャリングへの取り組みが必要となってきています。
社団法人 日本能率協会が例年実施している「経営課題実態調査」(2009)では、図表1に示す様な経営課題を重視しているとの結果が出ています。

- 収益向上
- 売り上げ・シェア拡大
- 人材強化(採用・教育・多様化)
- 新製品・新サービス・新事業開発
- 財務体質強化
- ローコスト経営
その調査結果を見ると、ここ1~2年の環境変化の影響を受け、企業各社の最重視する課題は、収益性向上、売り上げ・シャア拡大が上位に来ています。
また、中長期的(2012、2015年)にみると収益性向上、人材強化という基盤的な課題を重視しながらも、新商品・新サービスの開発、グローバル化、ブランド価値向上等さらなる成長・発展への課題が上位に来ています。
一方、中小企業においては、以下の様な経営課題「中小企業庁・中小企業白書」(2008、2009年度)が上がっており、今後、その対応に向け取り組みを開始する必要が出てきています。
労働生産性の向上への対応
海外に比べ、大企業と比べ低い。
サービス化への対応
経済のサービス化は進展して来ており、中小企業の第三次産業への割合が高まってきている。
ITの活用への対応
大企業に比べ、ITの広まりがもたらしている経営環境変化への認識が低い。
グローバル化への対応
売上高に対する輸出比率が増えてきている(特に、アジアへの輸出が牽引)
ただし、グローバル展開への人材が不足。
イノベーションへの挑戦
経営者のリーダーシップ発揮による中小企業の強みを活かしたイノベーション(革新・改善)への取り組みが必要。
2.これからの成長戦略とビジネスチャンス
2ー1.成長・発展への国の政策
昨年暮れ、政府より「新需要創造・リーダーシップ宣言~日本の強みを活かした成長戦略~」と称し、日本におけるこれからの成長戦略の方向についての発表がありました。
その内容の骨子は、以下の様な内容であります。
政権交代による、新たな成長戦略
- 成長に向けたビジョンの欠如 → 明確なビジョン「人間のための経済」
- 政治的リーダーシップ不足 → 政治の強力なリーダーシップ
- 第1の道「公共事業」、第2の道「市場原理主義」 → 第3の道「需要からの成長」
「需要からの成長」を支える6つの戦略分野
- 強みの活かす成長分野
(1)グリーン・イノベーションによる環境・エネギィー大国戦略
(2)ライフ・イノベーションによる健康大国戦略 - フロンティの開拓
(3)アジア経済戦略
(4)観光立国・地域活性化戦略 - 成長を支えるプラットフォーム
(5)科学・技術立国戦略
(6)雇用・人材戦略
2ー2.成長・発展への県としての政策
一方、県としては、地域中小企業活性化支援事業として「とちぎ産業振興プログラム」を設定し、産業・企業の発展に向け取り組んでいます。
その概要は、以下の通りであります。
- 農商工連携事業
農林漁業社と商工業者等が通常の取引関係を超えて協力し、お互いの強みを活かして売れる新商品・サービスの開発、生産等を行い、需要の開拓に取り組む。 - 地域資源活用事業
地域の「強み」となり得る産地の技術、農林水産物、観光資源等の地域資源を活用して新商品・サービスの開発・市場化に取り組む。 - 新連携事業
異分野の複数の中小企業が有機的に連携し、お互いの経営資源を活用し新商品・サービスの開発に取り組む。
また、今後注力すべき領域としては、ポテンシャルの活用、波及効果、成長性、産業活力の維持・強化の4つの視点から、以下の5つの分野を設定し、その振興に向け、各種の振興策を推進しています。
- 自動車産業
- 航空宇宙産業
- 医療機器産業
- 環境産業
- 光産業
3.中小企業、さらなる成長・発展への取り組みの視点
3ー1.中小企業の強み
これからの中小企業の成長・発展への取り組みに当たり重要な事は、
- 今後の成長・発展領域との関わりを持ち
- その中で、自社の特色を出し、
- 新たな挑戦をしていくこと。
であるかと思います。
大企業がやっている考え方、方法をそのまま中小企業に導入してもうまく行くものではありません。
自社としての強みを活かし、中小企業だから、また、自社だからこそ出来ることに焦点を当て展開してこそ、さらなる成長・発展が期待できるのです。
一般的にいうと中小企業には以下の様な強みがあります。
- 市場変化に対する迅速な対応
- 多品種小量対応
- 商品に付帯するきめ細かなサービス対応
- 個別ニーズに応じる柔軟な対応
- 他社にまねできない技術(技能)
- 経営における迅速かつ大胆な意志決定 等
強みを活かしていくためには、経営者と社員、部門の一体感・連携感が不可欠であるかと思います。
しかし、中には、中小企業としての強みは理解していても、その強みを活かしきれていない企業も多いのではないでしょうか。
3ー2.これからの成長・発展への取り組みの視点
今後は、ここ数年のコスト削減を軸としたネガティブなリストラクチャリングから、新たな成長・発展に向けたポジティブなリストラクチャリングを進めて行くフェーズに入ってきています。
このためには、変化しつつある市場ニーズを先取りし、中小企業ならではの知恵と工夫を活かしながらイノベーションを推進していくことが必要となっています。
イノベーションとは、大きく以下の2つの考え方があります。
その1つは、革新(ラディカル・イノベーション)、そして、2つ目は、改善(インクリメンタル・イノベーション)であります。
もう少し、詳しくその違いを示すと以下の様に説明することが出来ます。
革新(ラディカル・イノベーション)とは
新たな技術・商品・事業、新たなビジネスプロセス、業務プロセス、新たなマネジメント等今までにないブレークスルー型のイノベーションをいう。
改善(インクリメンタル・イノベーション)とは
顧客満足に向けた日々の地道な現状改善型イノベーションをいう。
つまり、改善は、従来の考え方を前提に、より良い活動をすることであり、革新とは、従来の考え方ではない新たな考え方を創造し、その上に立ちより良い活動を行うことであります。
イノベーションへの取り組みは賛同を得にくい活動であります。したがって、経営者自らが革新活動の旗振り役として推進していく必要があるのです。
昔から、「1/3は新」という考え方があります。
つまり、常に、1/3程度は新たな事に挑戦しようということです。
経営者は、1/3位は、新たな顧客・商品・事業創造に向け自分の時間を費やす必要があります。このためには、将来的に自分の右腕となりそうな人材を早期に見出し、育成していくことが重要となります。
多くの中小企業を見るとすべて自分が先頭に立ち推進していかないとダメと思い込んでいる社長が如何に多いか。
既存事業に関連する仕事の1/3位を将来右腕となる人に担当してもらうことにより、自分は、新たな顧客・商品・事業創出のための活動、新たなネットワークづくり等への行動が出来てくるものです。
一方、現場の管理者は、各自の仕事を1/3位減らし、改善に向けた創意・工夫のために時間を費やす必要があります。
新たな挑戦とは、現状の自分の仕事を仕分けし、1/3位を止めたり、部下に渡したりし、つまり、新たな挑戦に向け時間をつくり出すことがその第1歩ではないでしょうか。
以上、「中小企業、さらなる成長・発展への挑戦」をテーマに、その第1回目として「環境変化の先取りとイノベーションへの挑戦」について述べてきました。次回は、第1回に引き続き、「成長・発展へのビジョンづくり」をテーマに述べて行く予定です。
執筆者プロフィール

執筆者
戸張 真 Makoto Tobari (東京都世田谷区出身)
(株)日本能率協会コンサルティング
顧問
シニアコンサルタント全日本能率連盟認定
マスター・マネジメント・コンサルタント
経 歴
1949年2月 東京都生まれ
1971年3月 日本大学理工学部工業化学科卒
1979年9月 (社)日本能率協会入職(現、(株)日本能率協会コンサルティング)
1982年4月 チーフ・コンサルタント
1989年4月 シニア・コンサルタント
2003年6月 取締役
2009年6月 顧問
専門領域
- 経営戦略(ビジョン、事業戦略、機能別戦略)
- 中期経営計画策定・実践
- 新規事業戦略、企画開発・事業化推進
- マーケティング・新商品企画開発
- ビジネスリーダー育成(経営塾)その他
資格・著書
- 「MCB-行動革新メソッドに提案開発」(JMAC共著1995)
- 「わかる・使える新製品・新規事業開発」(JMAM共著1998)
- 「IT経営マニュアル」(PHP共著2000)
- 「新事業開発に関わる実態調査報告書」(JMAC共著2001)
パーソナルデータ
このところ「風景写真」「ゴルフ」に凝ってます。・芸術・人の心を理解し、企業・人材の革新を推進できるコンサルタントを目指しています。





